「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



  第三章

  −1−

「意外とあっさりクリア。やったぜ!」
男の言っていた事の重大さにはまったく気にする風でもなく、右の篭手を天に高々と突き出していた。
「もしかして、俺ってこの国を救ったヒーローなのか」
勝手に一彦の想像の回路が起動した。こうなると誰もヤツの思考を抑える事は出来ない。
「まず、おいしいものがいっぱい食べれるんだろうな。シェラは準備しといてくれるって言ってたし」
よだれが垂れてきそうになるのを必死に抑えていた。
「それにシェラってSだけどきれいだよな。もしかすると…」
少し上のほうを見上げて想像していた頭を2,3度横に振り、やっと現実に戻ったようだ。
「ダメだダメだ。おれとシェラなんて」
まだ、ダメなようです。戦いの後の達成感と勝手な早々で顔を少し火照らせている。
「まぁ、無事に帰れなかったら元も子もないし、お楽しみはノワールに着いてからだ」
やっと現実に戻ったようだ。
ゲームやアニメではスッと消えてしまう死体が、城中にゴロゴロと転がっている。その中血の海を一彦は意気揚々と歩いた。
辺りはもう真っ暗であった。アースではまだこれから夏休みが始まる季節だというのに、スカイは夜になって冷えていた。
「うっ、さむい」
着てきた夏服の制服を着替え、機動性を重視した胸当てを身にまとっているため、風がスゥスゥと通り抜けていく。汗が体を冷やしていく。
そのため、戦いの熱気は冷め、冷静さを徐々に取り戻してきている。
「それにしてもヤツはなんで『体の良い奴隷』とか『苦しいのはこれからだ』なんてことを言ったんだ」
ようやく一彦はあの男の言った意味を考え始めた。
「そもそもオレがこの任務を引き受けたのは、確か『スカイの存続の危機だとかで、西の城にいる賊が町を襲っているから助けてくれ』って言われたんだよな」
一人で暗い夜道の中ブツブツとつぶやいている。
冷静になって考えてみると、西の城の賊に襲われていると言う割には城もしっかりとあった。また、争いはほとんどないって言う割には鍛冶屋は、いくら大会があろうとはいえ、繁盛してた。
「いくらなんでも怪しすぎる…。裕也と理奈がいなくなったら緊急事態だとか言って急に戦いに狩り出されることになったよなぁ。けど、何にも緊急な事なんでなかったし…」
いつになく想像が働いている。
「おーい」
聞きなれた声が聞こえる。
「一彦か?」
振り返るとたいまつの光が近づいているのが見える。
「やっぱりそうだ。もうヤツは倒したのか?」
そこには鎖帷子をまとい、剣を持った男勝りのシェラがいた。
「出来すぎている…」
ボソッと一彦が呟いた
「ううん、なんか言ったか?」
「いいや、ヤツならもう倒した」
「そうか、よくやった」
決まった台詞をしゃべっているようだった。少なくとも一彦にはそう感じていた。
「さぁ、疲れただろう。ひとまずノアールへ戻ろう」
「その前にちょっと聞いてもいいか?」
「いきなりなんだ。まあいい、言ってみろ」
いつもの口調でシェラが答える。
聞きたいことは山ほどあった。敵のこと、味方のこと、スカイのこと、そしてこの後どうするつもりなのか。
だが、口から出てしまったのは
「いやなんでもない」
の一言だった。
シェラが怪訝な顔をしていたが、そうと言ってもと来た道を歩いていった。一彦も遅れまいと後を追っていく。
何にも聞けなかった。聞いてはいけない雰囲気というよりか、威圧感がシェラからフェロモンのようにムンムンと放たれていたせいであろうか。それともなれない戦いのせいで疲れてしまったせいなのであろうか。いつものノリで聞くことがこの今の時点では出来なかった。
 夜になって霧がかかってきた。それはだんだんと濃くなっていくのであった。
さっき乗ってきた馬車のところまで行くと、御者が民宿の従業員のように温かく迎えてくれた。
「なんとあの西の城の敵を一匹残らずやっつけたのですか。それはお疲れでしょう。ささ、お乗りになってください。お休みになってもかまいませんよ。なんてたって貴方はこのスカイのヒーローなんですからね」
「怪しい…いったい何が目的なんだ…」
そう心の中で思いながらも、ありがとう、と言って馬車に乗り込んだ。
極度の疲労と緊張からの解放のせいで一彦のまぶたはすぐにくっついてしまった。




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