「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



  −2−

そこは西の城。
賊が地べたに何十も伏している。そこでは二人の男性が向かい合っている。
「ご苦労なこった、俺らを退治するためだけにわざわざ呼ばれたわけだ。終わればお払い箱お前らなんて所詮この国の都合に使われる体の良い奴隷なんだよ!」
 男は話しながら剣を横に振る。俺はそれを剣で受け止め間合いを詰める。
「別にいいじゃないか、ここの事情なんて俺に関係ないね。とにかく俺はお前を倒してさっさと帰らしてもらう」
「!」
間合いを詰めて剣を押さえるのを篭手にかえ、自由になった剣を鎧の胴の節にあたるところに突き刺す。
「ぐふ」
 男は剣を手から離してその場で膝から落ちた。
「The Endだな」
 しゃがみこむ男の目の前で俺は天井を見上げた。
「さ・・すがに、強いな、でも…苦しいのはこれからだ…お前…魔・・の…」
 男は何かを言い残して息絶えた。奇妙な言葉を残して。

「ねぇ、人殺しになっちゃうんだよ?それでもいいの?…私思うんだ。いくら違う世界でも人を殺したらもう今の自分じゃいられない気がするの…私浅はかだった」

どこからともなく声が聞こえる。

日が昇り始め、10時を少し回っていた。
一彦はぐったりとした寝顔で、寝汗をびっしょりかきながら、馬車の中でうなされている。
「おい、いい加減目を覚ませぇ!!」
聞き覚えのある声が耳に入ってはきたが、それでも、一彦は目を覚まさない。
「ううん・・・・」
まだ寝たりないようだ。
「オラオラ、起きろって言ってんだー」
昨日とは180度態度が違う御者がジャンプしたかと思うと、一彦めがけ蹴りを入れる。
「よー!!」
御者の力のこもった声とともに、御者の足は一彦の頭にクリーンヒットした。馬車の背もたれにもたれかかっていた一彦は馬車から落ち、体を地面に強く打ちつけた。
「いてぇなぁー、なにすんだよ」
そんな起こされ方をされたら怒るのも無理はない。
ところが、御者は謝るどころか、一彦のところに駆け寄ると、右手に持っていたハリセンを振りかざし、「バシッ」という凄まじい音を上げ一彦の頭を引っぱたいた。
「奴隷のぶんざいで、なんて口を利いてやがるんだ」
「なんだと、てめぇ、ドレイ・・・」
いったい何のことだか一彦には分からなかった。夢のような現実に戸惑っていた。さっきの夢の続きを見ているような気さえした。
ふと、首の辺りに違和感を感じたので篭手ごしに触ってみると、硬い首輪がいつの間にかはめられてある。
「んん、それか、そうかアースのヤツには分からないかもな」
御者は笑いながら自慢げに話した。
「それは『サーク・ロック』と言う首輪だよ。それが付いているかぎりはアースへは戻れない」
「なんだって」
一彦は外そうと、必死になって青白く光っているサーク・ロックを取り外そうとしたが、うんともすんとも言わない。
「ははは、それは特殊な岩石で作られている。オマエみたいなアースのヤツには外せないよ。なんたって、サーク・ロックは魔法でしか外せないのだからな」
すると、一彦は起き上がると、御者の首を締め上げにかかり、
「コレを外せ!!」
と怒鳴った。
「まほうで・・ばくはつ・・すること・・できるぞ・・・しちゃろうか?」
一彦の御者を絞めている手の力が、だんだんと抜けていった。
「やってほしいのか・・・それとも・・手を離すのか?」
咳き込みながらも御者は聞いた。
一彦はゆっくりと手を離し、2・3歩後退りした。
「最初からそうおとなしくしてればいいんだよ、奴隷君」
御者は軽く前に出ると、もう一発ハリセンで頭をたたいた。
言っている事が本当かどうかは分からなかったが、嘘は言っているようには思えず、逆らうに逆らえなかった。
アッと言う間に、昨日の悪役を倒す正義のヒーローは、一奴隷へと更迭された。
「おらぁ、ついてこい、ド・レ・イ」
感傷に浸る余裕もなく、一彦は国王の住む城のほうへと向かわされた。
国王の城、つまりノワール城は、町のどの位置からも見えるほど大きな町のランドマークになっている。白い外壁に、ちょっと暗めの水色の屋根はヨーロッパやディズニーランドを思わせる洋風のお城である。ただ1つ違うことは夢やファンタジーのマッタリとした場所ではなく、物々しい城であった。
実際に、城へ入るのには、何重もの審査を受けなければならず。多くの守衛に会った。
人々の見る目は昨日よりも鋭く、突き刺さるような目線で見下しているように思えた。
それらの審査をくぐり抜けやっと城の中に入ると、待っていたのは、目を傷めてしまうのではないかというほど輝いている、一面大理石の内装であった。
「おい、こっちだ。なに見とれてるんだ」
思わず見入ってしまい、足が止まると、御者が叱咤する。
そして、会議場のような長いテーブルが置いてある部屋へと通された。
そこで迎えられた、いや、待ち受けていたのはシェラと体つきの良い見るからに強そうな金髪の男であった。
「私の名はヘンリー。この国の戦闘隊長をやっておる。我が国のために、自ら進んで敵をして助かったぞ。コレで国王様もお喜びになる。なんせ、西の城の攻略は3年間もてこずっていたからな」
ヘンリーは感謝するというよりは、私が感謝されるかのように自慢気に話した。
「だったらオレが、感謝の印をゲットしてもいいんじゃないのか」
一彦は不服そうに主張する。
「本来ならば、褒美をやるとこだが、褒美をやったところでオマエにもう用はない。我が国が天上統一したのだからな。お前に褒美なんぞやったら、どぶに捨てるようなもんだからな」
「じゃあ、初めから俺を利用しようとしてたっていう訳か?」
一彦が怒鳴りつける。
「いまさら気づいたのか、ふふふ。お前は、我が国に利用されたんだよ。まぁ、こんな簡単に引っかかるとわな、シェラはいい演技だった」
「ありがとうございます、ヘンリー様」
「そうそう、捕獲の確認は済んだからもう下がってよいぞ。ホーザーには後で褒美を進ぜよう」
「ありがとうございます」
一彦を連れてきた御者が答える。
「くれぐれも脱出しようなんぞは考えないように。お前の命はないからな」
そうヘンリ−が言い終わると、今度は御者ではなく城の兵らしく者が現れ、そいつらに一彦は引っ張られる。
「なにすんだよ。離せよ。嘘だって、冗談だって言ってくれよ。おい、聞いてんのかよ」
狂ったように叫び散らすが、結局、別の場所へと連れて行かれた。
 行き先も告げずに、引っ張られる。
城から出て、どれ位歩いたのかそれさえも分からない。気付くと城からだいぶ離れたゴミの焼却場のようなところに来ていた。回りを見渡しても城がかろうじて見えるほど遠く離れた場所であった。
焼却場であろうと判断したのは、コンクリートで固められた、汚れている黒い煙突が1本すすを吐きながら稼動していて、辺りに異臭が漂っていたからだ。
さっきまでいた城の内装や外観とはまったく似ても似つかない、汚れた焼却場であった。
「ここがオマエの墓場だ」
ここまでつれてきた兵が吐き捨てるように言った。
焼却場に入ると熱気がプァーンと襲った。それと同時に鼻を突くような生ゴミの臭いが一彦の気持ちをますます鬱にする。
従業員の休憩室のような場所に通された。看守らしきヤツが10人ほどいる。まるで、刑務所であった。
「まず、今着ている防具を脱いで作業着に着替えろ!」
そう叫ばれると、言い返す気力はもはやなく、おとなしく指示に従った。
 作業着と言われた服は油まみれの汚れた青いつなぎで、誰もが着たがらないような服であった。まさに、ドレイである。
「オマエにはお似合いだぞ」
一人の看守が詰った。
一彦はムッとし、看守の顔をにらみつけ、眼を飛ばした。
「なんだ、やってやろうか」
売られた喧嘩は買いましょう、というような勢いでその看守も一彦を睨みつけた。
「まぁまぁ、これからたっぷりと痛みつけてやりゃあいいってことよ」
他の看守が止めに入る。
こうして奴隷生活が始まった。




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