「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



  第四章

  −1−

俺が焼却場に来てちょうど10日目の午後のことだ。
焼却処理場全体に看守の怒鳴り声が響き渡っていた。
「おい、お前!さっきゴミの山の中から何か回収してたろ!?出せ!」
やばい、バレてる。
「え、何のことっすか?」
とりあえずごまかすしかない。
「とぼけるな!さっきゴミの中あさってたの見てたんだぞ!」
「はあ、ちょっと不燃物の仕分けが大変で………。でも何も回収したりしてないっすよ」
俺は必死にごまかそうとするが、看守は不満そうな顔をしている。
「どうも怪しいな。おい、ちょっと立て!」 
やばい……。絶体絶命だ。
 看守はしばらく俺の方をじろじろ見てきた。かなり疑われてるみたいだ。
数分後、持ち物検査まで受けて、ようやく何も隠し持ってないと納得したらしい。
「何をたくらんでるか知らんが妙なマネしたらただじゃすまさんぞ」
「はーい」
 俺の方を鋭い視線で睨みつけながらそう言い放つと看守はその場を去っていった。
 俺はその瞬間に肩の力が抜けてがっくりきた。
助かった………。もしこれが見つかっていたら大変なことになっていた。
危ない危ない。我ながらがんばった。偉いぞ俺。
 自己満足にふけりながら俺は焼却用の大きな釜の影に隠した物を確認した。
うん、無事だ。バレてないバレてない。
「おっと、手を止めるとまたお仕置きをくらっちゃうな。」
確認だけすますと俺は「隠した物」から目を離し再びせっせと働き始めた。
どうでも良いけど早く今日の仕事終われー。

ようやく一日の仕事が終わる時間になり奴隷たちは独房に戻ることを許された。
 今日も一日疲れたなー。酒でも飲みたいな。
おっと忘れるところだった。
俺は釜の影から「隠していた物」を取り出し、看守の目に触れない様に着ていたつなぎで覆い隠すと大急ぎで部屋に戻った。
そして、それを独房の床にそっと寝かせると
「ココノ、おいココノ。しっかりしろ」
そう、それは全身に大やけどを負ってぐったりしているココノだった。何と今日の午後ゴミの中に大やけどをしたココノが紛れてきたのだ。ホントにビックリしたなー。
何とか看守の目をごまかしてここまで連れて来られたけど………こいつちゃんと生きてんのかな?
「う、うーん。」
お、あっさり目覚ました。
「一彦………さん?」
まだ意識がもうろうとしているココノだがどうやら俺の姿を確認したみたいだ。
「お、気がついたか。大丈夫か?何かすごいやけどしてるみたいだけど……」
「………大丈夫です。私達ホムンクルスは少し時間が経てばすぐに傷は癒えますから」
目が覚めたばかりなせいかココノの声はひどく弱々しい。
「ごめんなさい、一彦さん。私ただシェラ様の命令に従っていただけで………。知らなかったんですあなたが騙されて連れてこられたなんて………そしてその案内役を私がやっていただなんて………」
ココノはすまなそうに事の次第を話し始めた。この様子だとどうやら嘘は言ってなさそうなので、俺はココノをせめようとは考えなかった。
「一体何があったんだ?どうしてそんな大やけどを………」
ココノはまだ傷が触るのか、かなり辛そうに重たい口を開く。
「私、裕也さんと理奈さんをアースに帰した後、自分の部屋に戻って疲れて眠ってしまったんです。そうしたら、眠っている間に一彦さんは西の城に送り込まれていて…………何だかよくわからないうちに奴隷にされてしまったと報告を受けたんです。それで私のせいだ、と思って慌ててここに助けに来たんですが………その途中に………」
ココノは突然言葉をつまらせた。歯を食いしばっている。よっぽど辛い目にあったんだな。全身にやけどまで負わされて。うう、かわいそうなココノちゃん。
「やつらに………捕まったのか?」
「いえ、よそ見していたら焼却場の煙突にぶつかってしまって全身大やけどしちゃったんですよ。熱気もすごかったし。しかもそのショックで気を失ってゴミの中に落っこちたらしくて………。ホントに痛かったんですよー」
………あのままゴミと一緒に釜に放り込んでやればよかったかな。心配して損した。
「ところでココノ。お前このサーク…ロックってやつ外せるか?」
無理やり話題を変えた。ていうかそれが一番大事な事だし。
「あ、はい。すぐに外せますよ。スカイの住民にとっては簡単ですから」
「よしっ。これさえなくなれば看守なんか怖くないぞ。」
サークロックの恐怖から開放されると思うと嬉しくてたまらなくなった。
「ココノ、お前のやけどはどれくらいで回復しそうだ?」
「ええと………多分三時間くらいですっかり良くなると思います」
早っ!ホントに人間かこいつ?あ、人間じゃないんだっけ。まあいいや。
「よし、じゃあ明日の朝ここを脱走しようぜ」
何だか希望が見えてきた。やはり正義は勝つ。
「でも一彦さん。武器もなしにここの看守達の中を素手で脱走するのはいくら何でも危険なのでは………」
う……痛いところをつかれた。言われてみるとその通りだ。看守達は皆体格も良く強そうだったし、素手で飛び出していくのは自殺行為かもしれない。
「確かにそうだな、俺の装備どこに持ってかれたのかな……」
とりあえず長剣を取り返さないとどうしようもなさそうだ。あれさえあれば戦えるんだけど。うーん、困ったな。
『お前の持ち物ならこの独房の少し向こうの看守達の見張り室に置いてあるぜ』
どこからともなく男の声が聞こえた。
おかしいな、この部屋には俺とココノしかいないはずなのに。
 まさか、おばけ!?
『おーい、こっちこっち』
 よく耳をすますとその声は部屋の隅っこの方から聞こえる。
「ん?あれは………」
今まで薄暗くて気づかなかったが良く見ると、独房の隅の方の壁に古くなり劣化して出来た割れ目があった。どうやら声はそこから聞こえるらしい。
近くまで行って見ると壁の割れ目の向こうに少しだけ隣の部屋の奴隷の顔が見えている。
どうやら声の主は彼の様だ。
「お前この前仲間が腹痛で倒れたとき看守に一人で向かっていったやつだろ?度胸あるよなー。気に入ったよ。脱走するならここを出て左に少し行った所の見張り室で自分の持ち物を取り返すと良いぜ」
 壁越しに隣の奴隷が貴重な情報を提供してくれた。奴隷の中にも良い人がいるもんだ。
「ありがとう。助かったよ」
「がんばれよ。じゃ俺は明日に備えて寝るぜ」
隣の奴隷に礼を言うと、何だか俺もどっと疲れが出た。今日の仕事もハードだったからな。とりあえず今日はもう寝よう。
気がつけばココノも怪我と疲労のためか眠ってしまっている。
 それにしても、これだけ大きな声で喋ってるのに看守には全く気付かれなかった。ここの見張りって結構適当なんだな………。
ま、いいや。そんじゃおやすみなさーい。




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