−4−
ノワール城。
すでに国王がこの世から葬り去られた今、玉座の上には一人物思いにふける男の姿があった。
その男は金髪の髪をゆらし、深くため息をつく。
「小山・・・一彦。アースから来た片目の戦士か」
ヘンリーは両目を閉じて背もたれに体を預けた。
「思い出すな・・・・あのオッドアイの事を・・・」
静寂に包まれたままヘンリーは昔のことを思い出し、そのまましばし時が流れていった。
その時、静寂を切り裂くかの様にドアの開く音がする。
「ヘンリー様」
高くしっかりとした声が入り込んでくる。
「リリスか。何の用だ?」
開かれたドアの向こうから、フワフワと宙に舞う小さな体、リリスが姿を見せた。
「あのアースの娘、とりあえず牢に入れておきましたがいかがなさいます?」
『あのアースの娘』とは言うまでもなく、ヘンリーの指示によってアースから連れ出された何も知らない少女。沢村理奈のことに他ならない。
「そうか・・・ふむ。では東の闘技場にでも連れて行くとするか。」
ヘンリーは口元に薄笑いを浮かべた。
「闘技場・・・ですか?」
「そこに小山一彦達を呼び出し、あの娘をエサに闘わせるのだ。どうだ、おもしろいだろう」
ヘンリーは金髪をかきあげて、再度不敵な笑みを浮かべた。
「しかしヘンリー様。やつらはホーザーを軽々と倒すほどの腕前。油断はなさらない方が良いかと・・・」
リリスが無表情のまま静かにそう言った。
リリスは何事にも保険をかけたがる完全主義の性格なので、こんな心配をしているのだろう。
「心配はいらん。もしもの時の為に私もそこに行こう。やつらの実力には少し興味もあるしな。」
「は・・・ヘンリー様自ら、ですか?」
リリスは驚きの言葉を発した。が、その表情はやはり崩れていない。
内心ではかなりの驚きを感じているのだが表に出さないところは、まさしくココノとは正反対だった。
「まあ私の手をわずらわせることなどあるとは思えぬがな。」
ヘンリーにとってはゲームを楽しんでいるくらいの心境だった。
「リリス、すぐに馬車の用意をしてくれ」
「かしこまりました」
リリスはうなずくと、ふわふわと飛びながらその部屋のドアを出て行く。
一人部屋に残ったヘンリーは、静かに立ち上がった。
「小山一彦。奴隷のあいつには東の闘技場はぴったりの墓場だろう。おっと、殺すわけにはいかんか。やつには私の実験のサンプルとして大いに役立ってもらわなくてはな。クックックック」
ヘンリーは再び金髪をかきあげ、大きな声を上げて笑った。その顔はすでに勝利を確信し、全てを悟っている様でもあった。
部屋中にヘンリーの笑い声が響く中、リリスの出て行ったドアの向こうに一つの人影があった。
それは、ドアの影から鋭い視線でヘンリーを睨みつける、シェラの姿だった。
[第四章・第三節] |
[第五章・第一節]