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二時間後、俺たちはそろってシェラの屋敷の中央部の中庭に通された。さすが豪邸だけあって、庭園の広さもそこそこだ。対の屋敷となっているはずの反対側の屋根が見えるだけで、向こう側までがかなり遠い。
夜なので少し、冷え込みがひどい。
服装はここに来た時の半袖のYシャツとズボンを着ていたので、かなりさむかった。
「うわ、さむっ」
隣で裕也も似たような感想を叫びながら、両腕をさすっている。そのさらに隣の理奈は何もいわず、少し怒ったような表情のまま前を歩くシェラを見つめていた。
やっぱり、相当怒ってるんだろうな。
頭の中にそんな思いがよぎる。
無理もない、兄弟に人殺しをさせていた張本人が目の前にいるのだ。
別にシェラが実行犯ではない上、結果的に英雄となったからには本人にもそれなりの自覚があるんだろうけど、やっぱり理奈自身はそれじゃ気持ちの整理がつかないのだろう。
「本来なら、ここからアース・スカイ間での移転魔法を使うんだが」
「ここから?」
なにか特別な場所なのだろうか。
「足元を見てみてくれ。何か石が敷いてあるだろ。これを使えば術者の負担が軽くなる」
「魔方陣か」
確かに白くてすこし細長い石をつなぎあわせた線が、体育館のラインよろしく庭園の隅々までいきわたっているようだった。裕也の言う魔方陣なら、だいぶ巨大なものらしい。
「じゃあココノは?」
「私の場合は実験もかねて、あえて魔方陣を使わずにアース・スカイ間での移動魔法にかかる負担を調べていたんです」
すっかりお気に入りになったのか、裕也の頭の上に載っていたココノがふわりと宙を舞う。
「お前は着地のポイントがいつもずれるから、あまり参考になってはいないんだがな」
シェラが振り向きもせずにいった。
「そんな、ひどいです〜」
「アハハ、やっぱりそうなんだ」
裕也が笑う。
「裕也さんまで、ひどいです!」
ココノが顔を膨らませて抗議する。
しばらく歩くと、石が細かく組み合わせされた、段差のある舞台のようなものが現れた。
その石畳の段差には、十数人分くらいが載れるくらいの赤い魔方陣が描かれていた。
「みんな、そこに入ってくれ」
シェラの指示で、俺たち三人が円の中に立つ。
光景的に見ると、なんだか実験につき合わされてるような気がしないでもない。
「裕也、理奈………そして一彦。今回は私の都合で召還してしまって、すまなかった」
あのシェラが。
こともあろうに、俺たちに頭を下げた。
「シェ、シェラのせいじゃないだろ」
「そうそう。んなに恐縮することもないよ」
いつもと同じように、伊達眼鏡の裕也が微笑んだ。
余裕そうな笑みはいつもと変わらない。
強いなぁ、と思った。
「…………もう、二度と兄貴を呼ばないでよね」
理奈は対照的にキツかった。
ココノが視線の余波を受けて、少し顔を引きつらせて理奈から離れるように飛んだ。
「……ああ。本来なら、スカイのことは自分達で解決するべきなんだろう。アースの力を借りてしまうのは、人間としての性かもしれん」
「そんなんでいちいち人殺しのために駆り出されたら、たまったもんじゃないよ」
「理奈」
裕也が、少し強く理奈をたしなめる。
アースではあまり見られない光景だった。
「………戦闘種族とはいえ、これから生まれてくるホムンクルス達にも人権と待遇は配慮するつもりではいるが………やはり難しいところだな」
「だろうね」
裕也がさびしそうに目を伏せる。
過去のことでも、思い出しているのだろうか。
暗くなった場所を、シェラが手をたたいて切り替えた。
「ま、三人にはもう関係のない話だ。ホムンクルス達の問題も、フェルムストルムからの戦いも、これからは私達が切り抜けていく問題なのだからな」
「これは、スカイの人たちの問題であって、やっぱりアースの人たちには迷惑はかけられませんしね」
ココノも、シェラもあえて笑っていた。
それが、ものすごい困難で険しい道であることを知っていながら。
「ココノ、詠唱準備に入れ」
「はい」
ココノが宙に静止して、俺達のほうへ両手を差し出した。
途端に魔方陣がさらに赤く輝き始める。
「これはサポート用だから、三人が帰りたいと願わなければ正常には発動しない。それほど強い念は必要としないから、気軽にアースのことでも思い浮かべていてくれ」
呪文詠唱でわけのわからない旋律をつむぎだしたココノの横で、シェラが笑う。
アースのこと……か。
そういわれても、頭を駆け巡るのはスカイのことばかりだった。
あまりに、この十数日の出来事はアースで生きた退屈な日々とは違っていた。
この手を血に染めたとしても、己の力が必要とされる世界。
アースの日々も、捨てるわけには行かない。
でも、スカイの自分には戦う力がある。
「行きます………皆さん、衝撃に耐えてください」
ココノが、うなり声を上げそうな顔で魔法力を足元の魔方陣に注ぎ込んでいく。
そして数秒後、足元が強い七色の光を放ったかと思うと目の前が白く…………。
輝いた後。
見慣れた景色が、目の前に広がっていた。
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