「Wacky Pirates!!」
著者:創作集団NoNames



   第四章

     ―1―

ドオン。 
「…っ!?」
その場所では常識を遥かに超えた戦闘が展開されていた。
軍の本拠地である軍事基地。
そこに、捕らわれた仲間を助け出そうとたった一人で潜入したアルムは、見張りの目を抜けながらもついに牢屋の付近まで辿り着いた。途中、何度か見張りに姿を見られることもあったが、そのたびに自らの能力で彼らを灰にしてきたのだ。
 だが、あと一歩というところで突然現れたこの謎の少年。
 この軍服に身を包んだ緑色の髪の少年は、今までの見張り兵達とは格段の差がある。
 アルムは確信を得ていた。
 間違いない、こいつは自分と同じ、特殊能力者…………「魔術師」だと。
「さすがは、灼鬼アルだな。あのカプトースのキリバールとかいう『もどき』とは桁違いの能力だ」
 緑髪の少年は、にやりと笑った。
「きさま、何者だ?」
 その時のアルムは普段ヘクトやトメと会話をしている時の穏かなアルムとは別人だった。
「フフ……。軍の中尉を務めるラムだ。仲間を助けたくば私を倒してからにするんだな」
 突如、ラムの体がドーム型の《膜》で包まれた。
 そしてラムの右手から《膜》と同じ色の槍が『発生』し、アルムを襲う。
 ガインッ!
「ッ!」
 アルムは自分の脚力を最大限に活かし、真上へ飛び上がる。 
同時にそのままお返し、とばかりに右腕から炎の弾丸を繰り出しラムに放った。
「無駄だ!」
 ドオンッ!
 弾丸はラムを覆う《膜》にぶち当たると、四方八方に大きく広がりながらかき消された。
「どうした…………その程度か?」
 自らがかき消した炎の残骸でまだ視界が遮られている中、ラムは上空のアルムを狙い撃ちにしようと、再び右手を構えた。
 上空では自由がきかないため、アルムはラムの攻撃を回避することが出来ずに、ジ・エンド………というシチュエーションがラムの頭にはイメージされていたのだ。
しかし………。
「何!?」
 炎の残骸が晴れ、ラムの視界が取り戻された瞬間、既に上空にアルムの姿は無い。
「何っ!?ど、どこだ!?」
 必死に周囲を見回しアルムを探すが、その姿は影も形も無かった。
「…………悪いな、ラム中尉」
「………ッ!? 」
 数秒後、アルムの無情な囁きはラムの背後から聞こえたのだ。
 わずか一瞬の間に、アルムは上空からラムの背後に回り込んでいた。
その声に反応したラムはすぐに体ごと振り向き、戦闘態勢をつくろうと試みる。
 が、すでに決着はついていた。
 ドゴオオオオ!
「ぐあああああっ!」
 至近距離から放たれたアルムの懇親の炎が、ドーム型の《膜》をも突き破り、ラムの体を包み込んだ。
「ぐ………あ…………」
 さすがに中尉を名乗るだけのことはありラムの体は自らの能力により、一定時間は炎に耐える事が可能だった。が、一分も経つ間にラムの肉体は白い灰に姿を変えた。 
「悪く思わないでくれ。早く仲間を助けたいんでな」
 その場に落ちた灰の跡を一瞥するとアルムはそのまま牢屋へと先を急いだ。


「………デルタ………ドリアーノ」
 鉄格子で仕切られた冷たい牢屋が横にいくつも並ぶ軍事基地の一角。
 薄暗い空間の中で、そのうちの一つに向かい、アルムは鉄格子の向こうへと声をかけた。 
「…………その声は…………アルム!?」
「ホンマか?アルムなんか?」
 すぐに、薄暗い鉄格子の向こうから二つの人影が現れる。
 間違いなく、デルタとドリアーノだった。
「ああ、俺だよ。助けにきた」
「アルム………無事で何よりだ」
「アルム、トメやヘクト、ケントも無事なんやろ?」
 三人は鉄格子を隔て、無事な姿での再開を心から喜んだ。
 無事な二人を見て、ほんの数分前までの闘いで張り詰めたアルムの表情も笑顔へと変わっていた。
「ああ、皆無事さ。さあ、軍の人間が来る前に逃げよう。今鉄格子を壊すから………」
 アルムは鉄格子に手を掛け、自分の能力を両手に集中させる。
その時。
ズドン!
「……………ぐっ!?」
 突然、乾いた空を切り裂く音とともに、背後から飛んできた何かがアルムの体を貫いた。
「アルム!」
 牢屋の中の二人は声を揃えて叫んだ。
「ぐ…………銃……弾?」
 貫かれたアルムの腹部からはどす黒い液体がどくどくと流れ、地面に滴る。
 アルムが激痛に歪んだ表情で、フラフラと振り返ると、そこには一つの人影があった。
「お前…………は………」
 ズドン!
「ぐああ!」
 二発目の銃弾が再びアルムの腹部を貫く。
 その瞬間、アルムの腹部からは勢いよく真っ赤な物が飛び散り、アルムはその場に崩れ落ちた。
「アルムーッ!」
 デルタとドリアーノの必死の叫び声は既にアルムの耳には届かない。
 薄れ行くアルムの意識は、やがて完全に失われていった。




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