「雨神ファイル2 〜キナコ警部と宝石店強盗〜 <中編>」
著者:雨守



 雨神探偵と木中警部が久しい再会を果たしていると、横で真央が不思議そうに見ている。
「雨神さん、この人が『きなこ』さんですか?」
「だから『きなか』だって!」
 それを機に木中警部も真央の存在に気付く。
「雨神、そっちの可愛らしいお嬢ちゃんは誰だ?」
「はい、よく言われます!」
 真央が即答する。
「泉川君、少し黙ってて!…私の助手だよ」
「へえぇ。助手か…」
「ところで、木中。難事件と聞いたんだが…?」
「おお、それそれ…」
 木中警部は古い友人との再会を楽しむ時を終え、一刑事の顔に戻る。
「この辺りの宝石販売店に強盗が入ってな。店の金庫の金ごっそりやられちまったんだよ。一千万ほどな…」
「ふむふむ、それで現場の状況は…?」
 木中警部は懐から一枚の紙を取り出し、大村刑事に渡す。
 どうやら現場、つまり宝石販売店の店内の見取り図のようだ。
「えっと、大村君…だったかな。お前、この雨神に事件の事説明してやってくれ」
「は!」
 木中警部の一声で、横に居た部下の大村刑事が説明を始める。
「被害にあったのは三丁目の上山宝石店。その時間、店には若い男の店員が一人だけだったそうです。犯人はその店員を背後から握り拳で強く殴りつけ気絶させ、店の奥に侵入しました。で、こちらの店内見取り図をご覧下さい」
 大村刑事は手元の見取り図を広げる。
「その後、犯人は真っ直ぐここの金庫室に向かいます。そして、あらかじめ何らかの方法で金庫のナンバーを調べていて、それを開けて金を持ち去った…」
「なるほど…」
 雨神探偵は黙ってそれを聞く。
「通報が入ってからまだ間もない。この辺りは警官でガッチリ固めてるってのに一向に犯人が見つからねぇんだよ」
 木中警部は憤りを隠せない様子。
「それで…私に何をしろと…?」
 雨神探偵は木中警部に尋ねる。
「そりゃあ、もちろん!犯人を捕まえてくれ!」
「いや、それは警察の仕事だろ…?」
「固ぇ事言うな」
「いや、もう既に犯人を追ってるなら私の出る幕はないじゃないか!?」
「何かあんだろ?犯人がどっちに逃げたか推理するとか…」
「そんなん出来るか!」
「探偵ならそれくらいやれよ!」
「無理だよ!」 
2人は突如喧嘩を始める。
  
 その時…

 バキッ!!

「痛っ!」
 突然、雨神探偵は後頭部に激しい痛みを感じた。
 どうやら誰かに殴られたらしい。
振り向くとそこには、たった一人の人間がいた。
「こら、泉川君!いきなり何すんの!」
「今そこに蚊がいたんですよ」
「蚊なんかほっとけ!君は今探偵助手という仕事中なんだぞ」
「私、几帳面なんです」
「そういうの神経質っていうんだ!」
「いえ、几帳面です」
「もうどっちでも良い!大体今何で殴った?相当痛かったぞ!」
「これです」
 真央は手に持っていた物を見せた。
 事務所にいた時から真央が読んでいた文庫本だ。
「ここの角の部分で…」
「ふざけるな!そんなの痛いに決まってるだろ!」
「ふざけてないです。私真面目です」
「いや、そういう問題じゃなくて…」
 いつも道理真央のペースに流されている自分に気付き、雨神探偵はふっと我に返る。

 しかし、その瞬間だった。

「ん?」
 雨神探偵は何か重要な事に気が付いた様だ…。
「なぁ、木中。君達警察は通報が入ってからすぐ犯人を追ったって言ってたね?つまりこの辺りはすぐに大勢の警官で包囲されたって事?」
「ん?ああ、もちろん。この近辺は警官隊でがっちりさ。猫一匹逃さえも逃がさねぇくらいな」
「そうか…」
 雨神探偵はにやりと笑う。
「わかったよ木中。犯人の逃げた場所がな…」
「ええ!?」
「何!?」

 雨神探偵の発言に木中警部、真央、それにその場にいた大村刑事、全員が驚く。
 雨神探偵は皆の驚き顔を楽しむかの様に眺め、不敵な笑みを浮かべた。




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