「In The Cloud」
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)



「………ぐわっ!」
「………」
「ぐぐぁっ!」
「……」
「うわぁーーっ!!」
「うるさーいっ!!」
「ぐへぶぇっ!」
「………はぁ、スッキリした」
「ぐ………ひ、久々に急所入った……」
「……ったく、ここで一体なにやってるの。やかましい」
「あたた………練習だよ、練習」
「練習?」
「中村さんにやられた時の発声練習」
「……手伝おうか?リアリティあったほうが声だしやすいでしょ」
「謹んで全力で遠慮します」
「ちっ………」
「露骨に顔歪めるなよ……本性が見えてるぞ」
「ほら、最近試験対策でストレス溜まっててさ、その、ね?」
「キラースマイルで「ね?」とか言うのは他の時にしてください…………」
「笠野君、君にもう、そんなチャンスがあると思う?」
「ないの!?」
「あるのを確信してるよな口ぶりだね」
「えっへん」
「褒めてない………と、そうだ」
「?」
「呼んでたんじゃないの?私のこと」
「ああ」
「さっきそこで葉子に会って、そう言ってたから。ココだろうと思って」
「さすが、愛の力だね」
「ほざけ」
「ひでぇ………」
「試験前で私もあんまり暇じゃないんだから。用件があるなら手短に」
「数学のノー」
「ヤダ」
「言い切ってないのに即答!?」
「いちいちリアクションが大きいね、今日は」
「冷めた顔で笑わんといて……」
「仏頂面の方がお好みなの?」
「そ、そういう問題じゃ………」
「ま、そんな笠野君のマニアックな趣味は置いといて」
「勝手にマニアック認定しないでください」
「だから、置いとけって」
「頼むから、拳鳴らしながら言うな」
「相手との接触にはまず、武力行使から」
「和平交渉じゃないのか!」
「そんなもん、無意味だよ」
「世界に謝れ」
「ごめんなさい」
「………」
「……」
「で、ノート」
「話題はズレなかったか………」
「あのね、一応幼馴染なんだから。パターン読めてんだよ?」
「学習能力がついたのね」
「ほら、また逸らそうとする」
「だから、やだって」
「なんで。いいじゃんか、減るもんじゃあるまいし」
「………」
「その辺に裏があると見た」
「しつこい」
「………分かったよ。じゃあ、数学は他あたる」
「そうして」
「えーと、じゃあ現代文と世界史を……」
「いっぺん、死ねぇッ!」


「………むー」
「どうしたの、笠野君?」
「むー?」
「変な擬音でこっち見られても返答に困る」
「あのさ、ちょっと聞いていい?」
「なに」
「こんな難しかったっけ、世界史って」
「笠野君、授業中ずっと寝てるでしょ………」
「確かにまともに板書をノート取ったって記憶がないなぁ」
「返せ」
「出してくれたんだから、丁重にお借りする」
「………はぁ、出す前に聞くんだった」
「いつまで借りられる?」
「当日レンタルがお選びいただけます♪」
「選択肢ないじゃん………」
「翌朝ホームルームまでに返却お願い致します♪」
「まぁ、仕方ないか」
「それでは、お会計430円になります♪」
「リ、リアルな数字出すなぁ……」
「ノート一冊レンタル、赤点食らう位なら安いもんでしょ?」
「え、マジで払うの!?」
「どうしようかな」
「中村様、御肩をお揉み致しましょうか」
「下郎が、気安く触るでないわっ!」
「どうしろと………」
「ああ、じゃあ一つ、頼まれごとをして」
「…………」
「なに、そのあからさまに嫌そうな顔は」
「僕はまだ、警察のご厄介になりたくはないんだ………」
「でなきゃ、私が笠野君を殺すわよ?」
「喜んで遂行させていただきます」
「よろしい………あのね………」


「………んー、今日もいい天気!」
「一面曇天なんだけど」
「夜半から雨が降るらしいよ」
「分かってるなら言う、なっ!」
「っと」
「なっ………ぜ、零距離射程が、かわされた?」
「………伊達に何十発も食らってないって」
「もう寿命もそろそろね」
「頼むから、不吉なこといわないで」
「それもこれも、君のためだ」
「…………まぁ、実際癖とかで分かるからねぇ」
「仕方ない、こうなったら直伝奥義を会得するしか……」
「まだ上があんの!?」
「体得者以外に見たものがいないとかって話だよ」
「敵は全員死んでるんだ………」
「笠野君のために頑張るよ」
「中野さんを殺人者にしないためにもやめてちょうだい」
「死ぬ覚悟はあるのね」
「持たせたのは奈々子ちゃ………っ」
「好機ッ!」
「しま………!?」


「…………からだが、く、くずれる」
「そんな歩き方してるからだよ」
「誰のせいだ………」
「でも………こう曇り空だと、気分萎えるよね。スカッとしないってかさ」
「あんだけ攻撃食らわしといてまだ言うの」
「なんか言った?」
「いいえ、なにも♪」
「晴れはまぁ、綺麗に空見えるし、雨とかでも気分は落ち着くんだけど、曇りってイマイチ「なんにもない日」って感じがしない?」
「それも、考えようだと思うよ」
「考えよう?」
「ほら、アレだよ。寒い時にわざと暑いって言って気分を紛らわしたりする、あれ」
「意味わかんない上に、なんか不毛だよ、それ」
「わーい、くもりだー、えへへー」
「それ、人としてどうよ」
「………道往く人の視線がイタイ」
「私は正常な反応だと思う」
「………」
「さ、とりあえずここで一旦お別れね」
「フォローないのかよ」
「しろってほうが無理」
「あ、でも、ほんとに俺でいいの?」
「………やらなくても数学できるんでしょ?」
「そりゃ、まぁ………高校レベルなら」
「世界史がアレで、その自信はどっから出てくるの」
「知りたい?」
「別に」
「そこまで聞いといて……」
「とりあえず、二人でやればどうにかなるでしょ」
「なんだか………」
「ん?」
「調子狂うなぁ………」
「なに、いつも通りがいいの?」
「滅相もアリマセン」
「んじゃ、チョットしたら家に来て。夕飯くらいなら出ると思うから」
「なんか、ちょっとは警戒とかしないの?これでも年頃の男だぜ〜?」
「ああ。今日お父さんいるから、何かあったら奥義が待ってると思って」
「え、あの親父さん、て………ちょ、ちょっとま」
「んじゃ、後で。来なかったら明日血祭りね♪」
「…………ぜ、前門の虎……後門の狼」




[終]

[ In the Wind ][ In the Snow "Returns" ]