「みかん」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)



「あけまして、おめでとうございます〜」
「帰れ」
「うわっ、ひどっ!」
「今度はどうやって中に入った?」
「大家さんにお願いしたの」
「あのオヤジ……」
「いい人だよね〜。私の顔覚えててくれたから、すぐ鍵貸してくれたよ」
「俺にプライバシーってもんはないのか」
「う〜ん」
「悩むなっ!」

「さて、挨拶も済ませたことだし」
「帰るのか」
「む〜。何が何でも帰って欲しいみたいだね〜」
「こっちはバイト明けで眠いんだ」
「しょうがないなぁ。じゃあ今日来た目的だけ済ませるよ」
「何か用があったのか」
「用事もないのにわざわざ来ると思う?」
「思う」
「…………」
「…………」
「それで今日はね〜」
「逃げたか」
「お年玉貰いに来たの」
「…………はぁ?」
「年賀状送ったのに返事もくれないし〜、代わりにお年玉ちょうだい」
「あのヘタクソな絵の年賀状見たら返事書く気も失せる」
「うるさいなぁ。それより、お年玉〜」
「あ〜。ハイハイ、やるから部屋の中で暴れるな」
「やった〜」

「ほれ、受け取れ」
「何、コレ?」
「みかんだ」
「それは見れば分かるよ」
「俺からのお年玉だ。ありがたく食え」
「…………ケチ」
「そうか、いらないか」
「あ〜。食べる食べる」
「田舎から大量に送られてきたからな。いくらでもあるぞ」
「冬の日にこたつでみかん。最高だね」
「そういうのは自分の家でやるべきだと思うがな」
「まあまあ、細かいことは気にしない」
「……まあいい。とりあえず俺は寝る」
「は〜い」

「…………シュールだ」
「あ、あはは〜」
「目が覚めたらコタツの上に山ができてる」
「ちょっと食べ過ぎたかな」
「まあ、別にいいけど。ちゃんと片付けはしとけよ」
「うん。あ、やっぱりもう一個だけ食べよー」
「新年早々太るぞ」
「はうっ」

「ねぇ……」
「ん?」
「みかん、ちょっともらって帰ってもいいかな?」
「…………好きにしてくれ」




[終]

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