「菜名」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)



「いただきま〜す」
「いただきます」
「今日のコロッケは自信作なんだよ。よく味わって食べるように」
「へぇ、ずいぶんと成長したな。理科じゃなくて家庭科レベルだ」
「いつまでも変わらないと思ったら大間違いなのさ」
「そうやってすぐ調子に乗るから、アホみたいな失敗するんだよ」
「いいの。今回は完璧なんだから」
「確かに。美味いな、このコロッケ」
「でしょ〜?」
「……コロッケは、美味い」
「なんか含みのある言い方だね」
「一つ気になることがあってな」
「何さ?」
「どうして付け合せの野菜が、レタスの千切りなんだろうな」

「さあ、どっちだ?」
「…………こっち、かな?」
「……だからこれはレタスだって」
「む〜」
「学習しないやつだな。いい加減にキャベツとの見分けくらい付くようになってくれ」
「葉っぱのくせに生意気だぁ。光合成しか出来ないくせに!」
「それが出来れば植物として十分だろ」
「大体この二つは似すぎだよね。そこからして間違ってる」
「そんなことを批判することが一番間違ってるってことに気づいてくれ」
「にんじんと大根なら見分けられるのになぁ」
「大根とカブを間違えたことはあったけどな」
「うぅ……、古い話を持ち出さないでよ」
「一ヶ月も前だもんな。悪かった、大昔だ」
「……いいもん。明日までに絶対に見分けられるようになるんだから!」
「それでも一日かかるのか……」

「こっち」
「…………」
「……努力は、したよ?」
「ソウデスカ」
「うわ〜、信じてないよ」
「……せめて料理の『さしすせそ』くらいは分かるよな?」
「それはさすがに馬鹿にしすぎだよ〜」
「そうか?」
「私はちゃんと普通にお料理できるんだからね。…………たま〜に失敗することがあるだけで」
「たまに、ね。……まあいい、それじゃあ『さ』は?」
「お酒」
「……『し』は?」
「食前酒」
「『す』」
「スコッチ」
「…………」
「それで次が清酒で、最後がミソだよね」
「なんで最後だけ正解なんだよ……」
「あれ? 何か違ってた?」
「今までどうやって料理してたんだ……」


「これがマイタケ、こっちがシメジ……」
「じゃあこれは?」
「……1UP?」
「緑の斑点があるキノコが食いたいのか、お前は」
「菌糸類のくせに生意気だぁ。胞子ばら撒くくせに!」
「……一年前と似たようなこと言いやがって」
「あー、あったね。うんうん、懐かしい」
「珍しい。覚えてたか」
「あの頃は私もまだまだ未熟だったねぇ」
「ほう、――――これは?」
「…………レタス?」




[終]

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