「頭痛薬」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)



「あ〜、う〜」
「やかましい」
「うぅ。病人に対してご無体な……」
「病人なら寝てろ。台所まで這ってくるな」
「だって〜、退屈なんだもん」
「雑誌でも読んでればいいだろ」
「もう何回も読んで飽きちゃった」
「何冊か小説も持ってきたはずだが?」
「洋書はちょっと……」
「紛れもなく日本語だ。漫画ばっかじゃなくてたまには活字も読んでみろ」
「ヤ! あんなの読んだら余計頭が痛くなるもん」
「開き直りやがった……」
「それよりもお腹すいた〜。ごはん早く〜」
「足にしがみつくなっ! こっちは包丁使ってるんだぞ」
「ふに〜」
「すぐできるからベッドに戻ってろ。鬱陶しい」
「は〜い」


「おいし〜」
「おかゆというより雑炊みたいになったな」
「五臓六腑に染み渡るねぇ」
「おっさん臭いぞ」
「これでビールもあれば最高だよね」
「同意を求めるな、未成年」
「うん、おいしかった〜。ごちそうさま」
「おう」
「こういうときは『おそまつさま』って言うんじゃないの?」
「粗末なものは作ってないからな」
「うわ、自信過剰だ〜」
「2合も平らげておいては説得力ないぞ」
「むぅ、そういうところだけチェックが細かい」
「そんなことより食ったら次は薬だな。どこにある?」
「そこの戸棚の一番上のとこ」
「ええっと……あった。これか」
「CMで『この薬の半分はやましさで出来てます』ってあったね」
「何だ、その怪しいクスリ」
「違ったっけ?」
「明らかに非合法っぽいな、そんなの」
「やましさじゃないとすると、やらしさ?」
「媚薬じゃねぇか」
「むぅ?」
「いいから飲め。そして寝ろ」


「完全ふっか〜つ!」
「早っ! 30分くらいしか寝てないだろ」
「うん。でもなんだか気分すっきり」
「まあ治ったのならそれに越したこともないか」
「やっぱり健康が一番だよね」
「てっきり風邪ひかない人種だと思ってたんだがな」
「バカにしてる?」
「理解できてないなら、あえて解説はすまい」
「ひどい……。でも、知らなかったな〜」
「何が?」
「二日酔いってすっごく苦しいんだね」
「…………」
「あれ? どしたの?」
「……なあ、ベッドの陰にあるビンはなんだ?」
「とっておきの大吟醸〜。開けたら全部飲まなきゃね」
「ただの飲みすぎかよ!」
「あ、もしかして飲みたかった?」
「頼むから空気を読んでくれ……」


「あ〜た〜ま〜、い〜た〜い〜」
「やかましい」
「うぅ……。私はいま不当なイジメを受けています……」
「お前のどこに正当性があるのか言ってみやがれ」
「ちゃんとテイスティングしたよ〜?」
「誰がワインの飲み方について話したか!」
「や〜、頭にひびくぅ〜」




[終]

←BACK:「倦怠期」NEXT:「番外編:二人+二人」→