「のこされたかなしみに」



 僕が 手品師だったなら

 のこされた かなしみに

 そっと手を添えて

 いち にの さん で

 空を飛ぶ たくさんの鳩にしてしまえるのに

 遠く とおく この秋の空の向こう側

 僕の知らない どこかへ 飛ばしてしまえるのに


 そんなことを考えて

 街路樹たちの中の 枯葉が一枚 落ちて

 まるで 自分が虚ろに透き通ってゆくのを

 他人事のように 楽しんでいるだけ


 のこされた かなしみは

 君がいつも座っていた場所

 公園のベンチ 僕の隣で

 いずれ来る 冬の影に怯えながら

 どこへも行けずに 佇んでいる