「おんがく」





 むかし

 音楽というものが

  一体どこからやってきたのか

 気になっていたことがある


 楽しい気分で 皆を笑顔にして

 悲しい気分で 皆を慰めて

 激しい気分で 皆を興奮させて

 音楽は一体 僕らを使って何をしようとしているのだろうと





 錆びた金属同士が 擦れるような

 そんな痛々しい音が ずっと

 そらじゅうを こだましているのに


 人々は 晴れやかな顔で 合唱し

 その嫌な音に 耳一つ貸すものもなく



 ああ

 音楽はきっと 僕らを

 この音から 遠ざけるために




 自分の思いを 摩り替え

 他人の声を 塞いで

 主張を 捻じ曲げ

 主義を 破壊し


 気持ちのいい平和を 歌わせて




 後で なにくわぬ顔で

     人間をたくみに操り



    出来損ないの僕たちが 互いを殺しあうように


  今日も


   僕たちの ヘッドホンの奥に潜んでいるのだ