「Wacky Pirates!!」
著者:創作集団NoNames



   −3−

 会社を出たヘクトがまっさきに向かったのは、過去に寄せ木細工を解いたあの骨董屋だった。実際の所、今にも解きたい衝動にかられたが、物が物であるだけに歩きながらと言うもの危ない。
 売る前に、FDの中身を確認したかった。それがさらに値打ちのあるものである場合、さらに高値で売る事ができる。多少なりとも、素人考えの末の決断だった。
 崩れかけた前大戦の瓦礫の間にひっそりと店を構えた骨董屋。
 既に閉店間近になりかけているその扉を、ヘクトは開いた。
 きぃきぃ立てて鳴る音をなんとか我慢して中に入るとつんとした黴臭い匂いがあたりに立ち込めた。ほこり臭い店内には、前世紀の物がいやおうなしに積み上げられていた。
「………」
 しばらくすると奥の暗がりから、なにかが出てきた。
「………いらっしゃい、と」
 いかにも客商売が面倒くさいと言わんばかりのメガネの男だった。くわえ煙草に新聞を抱え、その姿は前に聞いた実年例よりも遙かに老けてみえる。
「あの」
「………ん?」
「ここに、FDの中身を確認するような媒体、ってあるか?」
 ヘクトの問いを確認した途端に、男の目の色が変わった。
「もってんのか、お前」
「この中に入ってるらしい」
 そういって、ヘクトは素直に銀の箱を取り出してみせた。男はずりさがったメガネをきちんとかけなおすと、それをしげしげと眺めた後、ヘクトの顔を見た。
「見せてもらっていいかい?」
 差し出された手に、ヘクトは銀の箱を置いた。
 彼は注意深くそれをさまざまな角度から見ると、その箱自体にますます興味を持ったらしく、急にヘクトを見た。
「お前、これどこで拾ったんだ?」
「先輩が、売ってくれた。ほら、カプトースの」
「ああ、お前あそこの社員か。さてはジュールの紹介か?」
「違う。キリバーツの」
「ほぉ……こんなの、初めてだなあ」
「キリバーツがいうには、寄せ木細工みたいだって言ってたけど」
「寄せ木、かァ………なるほどね。と言うことはお前さん、寄せ木は解けるのか」
 短いやりとりでほぼ全ての意図を理解したらしく、その店主は言った。
「一度だけ」
「ああ………なるほどね。それならあいつはここを勧めそうだ」
 男はうんうん唸った後、急に真顔になった。
「それで、現物確認はしてないんだな?」
「ああ」
 男は渋い顔をしたまま、ヘクトとその辺を交互に見たが、しばらくして諦めたかのように言った。
「………キリバーツの知り合いじゃ仕方ない。対応機器を捜してやるから、その間にその箱を解いてしまえ。実は現存する寄せ木はパターンがあるんだよ、コツさえつかめばなんとかなるさ。椅子持ってきてやる、待ってな」
 男はうれしそうに奥へ引っ込むと、椅子を彼の近くへ寄越し、その足で入り口の戸を内側から閉めた。
「これで、邪魔ははいらん。好きにやるがいい。なにがあったら呼べ、奥にいるから」
「………どうも」
「言っておくが、茶は出ないからね」
 からから年甲斐にないような笑い方をして、男は店の奥へと消えた。
 多少、行動に不審を感じたものの、ヘクトはカウンターに残された銀の箱を手に取り、一番最初にスライドする場所を、鳴らした。


 寄せ木の最後の箇所がスライドすると同時に、店の鐘が八時を告げた。
「………ふぅ」
 個人的に、熱戦だった。
 案外、寄せ木は簡単に解けた。前のとパターンが似ていたらしく、前回の勘を取り戻すのにむしろ時間がかかった位だ。だが、やはり時間がかかる代物に違いはなかったようで、一時間程度を費やしてしまっていた。
 既に、カウンターには時々店主が現れては置いていく前時代の骨董機器がところせましと並んでいる。
「終わったかね」
 息をついているヘクトを見て、男が部品を運びながら言った。
「ああ。一応は」
「中身は?」
 ヘクトは、開かれた箱の中を見せた。
 一枚のFDが無記名のシールを張られたまま、中に入っていた。
「これでFDじゃなかったら、どうしてやろうか考えていたんだがな」
 そういって、店主は意地悪く笑った。その笑いもなんだか二十台には見えない。
「それは、残念だったな」
「まぁ、俺もこれで終わりだ。後はこれを組み立てるだけ。FDなんか二十一世紀の中頃には消滅してたもんなぁ………ほんとはコレだって情報機器リバイバル時代の時の名残りで買ったもんなんだぜ」
「………買うヤツなんかいるのか?」
「そりゃ聞き捨てならねぇな、兄ちゃん。今時古いものにしか、情緒や歴史は存在しないんだぜ、壊れやすい今の時代のものなんか、見ちゃいられねえよ」
 そういうものか、と言いかけてヘクトは黙った。
「そうだな。それより、早く組み立ててくれないか。中に何か入ってたら、それこそ値打ちもんかも知れないしな」

 さらに十分後。
「あーっと、このプラグがこうだから………これか」
 ガチリ、という音がして最後のプラグがパソコンの背面に差し込まれた。
「……ふぅ。これで配線のほうは、いいはずだ。後はOSがちゃんと動くか、だな」
 スイッチを入れると、低い重低音が静かな店内に響き渡った。
「ふーむ……『ういんどうず』かぁ………もうOSの規格にも載ってねえな」
 膝元に置いたOS関連の書類と見比べながら店主がぼやく。デスクトップ画面が出ると同時に、店主の顔が険しくなった。
「…………ちょっと待ってろ、内容確認は……と」
 もはや前時代的なものになったマウスを駆使して、確認作業は進む。
「ああ、そうだ。そこの穴にガシーンって言うまでそのFD差し込んでくれ」
「……大丈夫なのか?」
「まあ、信じろ。それにこの戦後復興のご時世だ、FDだけでも十分売れるって」
 フォローになってない励ましを受けて、ヘクトはそのFDを言われた穴に差し込んだ。
 がしんっ。
 小気味のいい音を立ててそれが穴にはまった。
「あ、あったあった。Aドライブってヤツだな」
 ダブルクリックの音がして、画面に内容が提示される。
 中に入っていたのは、ファイル一つだった。
「………『MAP』?」
「地図か?」
 さらにそれをダブルクリック。
 すると、プログラムの紹介が現れた後、白い画面に無数の黒い文字が現れた。主に数字と半角のアルファベットの羅列が、続いている。
「………なんだ、これ?」
「さあな」
 店主は文面に矢印を向けてパチパチマウスを叩いたが、さしたる効果はないようだった。
二人はしばらく文面と格闘したが、やがて店主がため息交じりに言った。
「一応、印刷しておくか」
 積み込んだ横の機材のスイッチを入れて、そこに白紙の紙を差し込んだ。なんとかディスプレイに「印刷」の文字を見つけ、そのボタンを押すと、がっさんがっさんと壊れそうな音を立てて横の機械が動きだし、文字羅列を印刷して行った。
「………結局なんだかは分からなかったな」
「地図と言うからには何かの関連があるんだろうけどな。少なくとも俺の行動範囲じゃないな」
 店主はきっぱりと言い切ると、インクで印刷されたかすれた書面をヘクトに寄越した。
「これで、いいだろ?とりあえず中身は確認できたんだ」
「ああ。満足だ」
「しっかしなぁ、そんな情報媒体がまだ巷に出回っている事自体が驚きだよ」
「そんなに珍しいのか?」
「珍しいっていうなら一級に珍しいな。だが、俺の活動範囲じゃないから買わないがね。行くところに行けば、三ヶ月くらいは食うものに困らないんじゃないか」
「ほ、本当か?」
 この板切れ一枚が、それほどの値打ちのものなのか。
 こんなものを譲ってくれたキリバールに悪いような気がした。
「まぁ、本当に買い叩かれなければの話だけど。あ、もう返すね」
 がしゃっ。
 出てきたFDをヘクトに手渡して、店主は続けた。
「俺もこんなもの見れて、おもしろかったよ」
「ああ。ありがとう、助かったよ」
「ん、別に。こちらこそさ」
 店主はなんでもない風に片目をわざとらしく上げてみせた。
 ヘクトは立ち上がった。
「いきなり金の延べ棒を手にしたんだから、帰り道は注意したまえ。あんまり不安そうにしていても、狙われるからね」
 出ていくヘクトに、店主は声をかけた。
「ああ」
 短く返事だけをして、ヘクトは再び夜のネオンの中へと消えた。




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